社員として働くうえで、転勤や配置転換といった「人事異動」は、避けては通れない道でしょう。
異動命令には、必ず以下のような「会社側の何らかの意図」が含まれているのです。
- 従業員のキャリアアップのため
- 会社の業績回復のため
もし人事異動を拒否した場合は、懲戒解雇などの重いペナルティが課せられるケースもあり得ます。
この記事では、サラリーマンなら知っておきたい「人事異動」のシステムについて、基本的な知識や人事異動を回避する対処法などを解説しています。
ぜひ最後までお読みいただき、参考にしてください。
人事異動に対する拒否権は、基本的に社員側にはない
長年、会社員をしていると、一度や二度は人事異動の話が持ち上がることがあるもの。
しかし会社が異動辞令を出したときに、従業員に拒否する権利はあるのでしょうか?
答えは「NO」。その理由は簡単で、
異動を断るということは、業務命令に従わない
ということになるからです。
就業規則で人事異動について明記されている
企業には、必ず就業規則というものがあります。
たとえば、厚生労働省が発表している就業規則のモデルケースでも、以下のように記されています。
(人事異動)
出典:厚生労働省モデル就業規則(令和4年11月版)
第8条 会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する
業務の変更を命ずることがある。
2 会社は、業務上必要がある場合に、労働者を在籍のまま関係会社へ出向させること
がある。
3 前2項の場合、労働者は正当な理由なくこれを拒むことはできない。
雇用する際に交わされる労働契約書においても、特別に勤務地が限定される記載がなければ、異動命令は会社側の契約違反とはならないのです。
このように、会社が持つ人事権はとても強い効力を持っています。
たとえ転勤を伴う異動の場合でも、基本的には拒否することは難しいでしょう。
新築マンションを買ったばかりなのに…
今の部署が好きなので、離れたくない…
このような事情があっても、なかなか断れないのが現実です。
会社が人事異動を命じる理由と目的とは
会社が従業員を人事異動をさせるのには、以下のような目的があります。
- 企業成長や業績回復のため
- 従業員の成長促進とモチベーション維持
- 人材構成のアンバランス解消
- 癒着や不正の防止
会社は全体最適を考慮しながら、人事異動を決定しています。
そのため、個人の意思で異動を拒否することは、
会社が立てたプランを台無しにするつもりか?
このようなとらえ方をされてしまうのです。
辞令が出やすい時期は?
職種や企業にもよりますが、下半期に向けた人事として、7月と10月に異動辞令が多くでる傾向にあります。
四半期決算となる企業では、決算後の7月、10月、1月に異動辞令が出されるケースも多いです。
転勤族ともなると、本人も家族もある程度の覚悟を持っているでしょう。
しかし、転勤を避けたい中堅・ベテラン会社員にとって、異動シーズンになると、
いつ声がかかってしまうのか…
このようにヒヤヒヤしながら働くことになるのです。
人事異動の周知方法:「内示」と「辞令」について
もし早いタイミングで異動を拒否できたら、回避できる可能性はあるのでしょうか?
一般的な周知の方法として、内示と辞令がありますので、詳しく見ていきましょう。
内示とは
内示とは、本人や直属の上司のみに(内々に)異動の話しが伝えられている状態です。
内示とは「内々にしめすこと」や「非公式に通知すること」を表し、「口外禁止」と同じ意味をもちます。
ビジネスにおいては、企業側が人事異動を本人や関係者などの一部の人たちに秘密で伝える際に使用され、早めに本人に内示を伝えることで準備や心構えを促す役割があります。
出典:アセスメントラボ
非公式な情報ですので、周囲に話すことは社内の混乱を招くので許されません。
内示とはいえ、実際には“ほぼ確定”となっているケースもあります。
正当な理由がある場合においては、拒否の意志を示せる最後のタイミングといえるでしょう。
辞令とは
辞令とは、公式の文書を用いて、企業側が従業員に正式に通達することを意味します。
辞令とは、入社式や官職、役職などを任免するときに発令されるもので、企業が従業員に対して通知する公式文書です。
労働基準法など法的な義務付けはありませんが、一般的には企業の命令によって、従業員が部署や事業所などの配置や、地位、役割を変更することとして捉えられています。
出典:indeed キャリアガイド
いってみれば、雇用主からの業務命令文書のようなものです。
内示にて事前通達した後に、全体周知として発令されるものですから、ここまで来るともはや覆すことは難しいでしょう。
辞令の交付には、
- 本人への手渡し
- 掲示物での開示
- 社内文書での掲載
上記のような方法があります。
また、権限を持つ人間が発信する場合に限り、口頭での伝達でも法律的に問題はありません。
人事異動を拒否することはできるのか?
もし人事異動を拒否した場合、どのようなことになるのでしょうか?
ここでは、人事異動を拒否する場合のリスクと考え方をご紹介します。
転勤や配置転換を拒否すると、懲戒解雇や降格などのリスクがある
就業規則に人事異動に関する記載がある以上は、異動の辞令に背くことは、懲戒処分の対象になってしまいます。
懲戒処分とは、企業の秩序と規律を維持する目的で、使用者が従業員の企業秩序違反行為に対して課す制裁罰のことです。
処分の種類には戒告、けん責、減給、出勤停止、懲戒解雇などがあります。
軽度のペナルティとしては始末書の提出となる「けん責処分」、重くなると「懲戒解雇(クビ)」という可能性も……
従業員が異動を拒否した場合には、会社側はまず理由を聞き出して、説得を試みることが一般的です。
それでも辞令に応じない場合は、然るべき措置が取られることになります。
措置内容は懲戒処分のほか、会社側が穏便に済ませるために、自主退職を促してくるケースもあるでしょう。
家族を養う生活費や教育費、住宅ローンなどの支払いに追われるサラリーマンにとって、懲戒解雇ほど痛いペナルティはありません。
転職するにしても、離職票に【重責解雇】と記載されてしまうと、再就職も難しくなってしまうのです。
仮に人手不足などの理由から解雇処分は免れたとしても、昇進の道は“ほぼ閉ざされた”と考えておいた方がよいでしょう。
人事異動はある種のチャンスでもある
人事異動を打診されるということは、当然ながらネガティブな要素ばかりではありません。
会社への忠誠心を見せておくことで、後々の昇進が期待できる
という面もあるのです。
実際に、昇格させることを前提として、人事異動をする会社は数多くあります。
他にも、メリットとして以下のようなことが挙げられます。
- さまざまな業務を覚えることで、マルチに活躍できる
- 現状よりも、高度な知識や技術を習得できる
- 心機一転でモチベーションアップできる
- 新たな人脈を築くことができる
- 人間的な成長が期待できる
- 昇給、年収アップが期待できる
- 異動(転勤)に伴う赴任手当が付与される
多少なりとも、異動するメリットに魅力があるのであれば、いちど考え直す余地があるのかもしれません。
人事異動を拒否するなら正当な理由が必要
もし、自己都合による人事異動の回避を考えるのであれば、やはり会社側に納得してもらえる“相応の理由”が必要となるでしょう。
正当性を主張できる理由としては、以下のものが挙げられます。
- 親や家族の介護が必要である
- 家族が重い病気(難病)のため、看護が必要である
- うつ病など、異動することで病状が悪化する可能性がある
- 労働契約書に【勤務地限定】の記載がある
人事異動に伴う内容を会社と交渉する場合は、まずは「拒否したい理由」をきちんと伝えましょう。
内容や状況によっては、異動先を考慮してもらえるかもしれません。
また、話しをこじらせないためにも、交渉時の伝え方にも注意が必要です。
否定的な態度は見せないようにして、会社側の意図を汲んだ上で交渉を進めましょう。
個人的な交渉が不利だと判断した場合は、後ほどご紹介する窓口に相談してみることも有効です。
権利の濫用で”不当な人事異動”と判断される場合もある
基本的には、会社の人事異動には明確な目的があるものです。
しかし、なかには権利を濫用(らんよう)した不当なケースも存在します。
いわゆる「報復人事」と呼ばれるものです。
報復人事とはどういうもの?
報復人事がおこなわれるのには、何かしらの原因があります。
おもな原因としては、以下のとおりです。
- 会社や上司との対立によるもの
- 内部告発によるもの
- 育休や介護休暇など、長期休暇の取得によるもの(正当性のある休暇にもかかわらず)
報復人事の具体的な処分としては、降格・減給・配置転換などがあります。
報復人事が権利の濫用と認められた実例
権利の濫用とみなされる人事異動を強要することは、許されることではありません。
民法第一条では、権利の濫用について以下のように記されています。
民法
第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
出典:民法|電子政府の総合窓口e-Gov(イーガブ)
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。
実際に、
これは権利を濫用した報復人事です
このように判断された例は、過去にいくつも存在してるのです。
たとえば、大手電子機器メーカーであるオリンパスが報復人事をしていたとして、訴訟の結果、賠償を命じられています。
内部通報めぐる再訴訟、オリンパスと社員が和解 異例の「全社員に通知」
内部通報への報復で不当に配置転換(配転)されたとして精密機器メーカー「オリンパス」を訴え、勝訴が確定していた同社社員、浜田正晴さん(55)が、判決確定後も適正な業務を与えられなかったとして、同社に2600万円の賠償や職位の回復などを再び求めていた訴訟は18日、東京地裁(清水響裁判長)で和解が成立した。
(中略)
確定判決などによると、浜田さんは平成19年6月、上司が取引先の社員を引き抜こうとしていると知り、「取引先からの信頼を損なう」と社内の窓口に通報。窓口担当者は浜田さんの名前や通報内容を上司に伝えた。その後、浜田さんは経験のない部署への異動を命じられ、外部との自由な接触を禁じられるなどした。浜田さんは「内部通報への報復で不当な配置転換だ」として提訴していた。
出典:産経新聞(2016.2.18)
不当な人事異動を受けた際の相談窓口
人事異動が不当な理由であると思われる場合は、会社が所属する労働組合のほか、以下の窓口でも相談することが可能です。
一人で困った際は、まずは相談してみましょう。
人事異動を拒否して、退職・転職を選択する道もある
人事異動の交渉が決裂した場合、残された道は、
異動を受理するか、転職するか
という選択肢を検討するしかありません。
人事異動を断って転職を希望する際には、以下の2点に留意してください。
早めに退職の意向を伝える
打診があった時点から、早めに退職の意志を示しましょう。
一般的に、内示から辞令交付(着任)までは1〜2ヶ月といわれています。
会社側や取引先へのダメージを最小限に抑えるため、最大限の配慮を心がけてください。
会社を辞めるときの手続きについては、退職手続きを円滑に進めるためのポイントでご紹介していますので、あわせてご確認ください。
転職にともなうリスク管理に努める
転職には、一定のリスクが付きものです。
年齢的なハンデ、年収ダウン、資格の有無、一時的とはいえ収入が途絶えるリスクなど。
これらの課題をクリアして、転職を果たすためには、事前の情報収集やしっかりとした転職プランが必要となってきます。
加えて、家族の理解も重要となってくることも、頭に入れておきましょう。
40代が転職で準備するべきことは、40代が転職活動で準備するべき5つのポイントでご紹介していますので、あわせてご確認ください。
まとめ:人事異動の拒否するときは、リスクを考えて後悔しない選択を
今回は、サラリーマンなら知っておきたい人事異動の常識や、もし異動を拒否するとどうなるかなどについてお話ししました。
人事異動にはさまざまな目的があるので、これを拒否するためには、
会社側を納得させる正当な理由を、適切なタイミングで伝える
というのが重要です。
就業規則に反して、自己都合で異動を断ることになれば、懲戒処分を受ける可能性があるので注意しましょう。
もし人事異動を回避するべく転職するときは、会社への影響を考えて早めに申し出ること。
もちろん、転職活動の準備も抜かりなく行いましょう。
人事異動にはプラスの要素とマイナスの要素がありますから、あなたの将来を考えたうえで、後悔しない選択をしてくださいね。