管理職の待遇について、
- 自分がもらっている管理職手当は、ほかの企業と比べて多いの?少ないの?
- 残業代が出なくなったけど、管理職手当は残業代の代わりなの?
- 休日出勤しても、管理職は代休がもらえないの?
このような悩みをお持ちの方はいませんか?
給与に関する話題は仲間内でも出しにくく、友人にも聞きづらいものですよね。
管理職だからといって、残業代がもらえないと決まっているわけではありません。
あなたが「名ばかり管理職」だった場合は、会社は残業代を支払う必要がありますし、休日出勤すれば代休だってもらえます。
この記事では、管理職の待遇に疑問をお持ちの方に向けて、手当の相場や残業代の扱いなどについて詳しく解説しています。
筆者はかつて人事部・法務部に在籍して、人事などの法律問題に対処してきました。
その経験にもとづいて、わかりやすく解説しますので、
自分の場合はどうなんだろう?
このように悩んでいる方は、ぜひ最後までご覧ください。
やまもと社会保険労務士事務所
代表 山本 務
50代男性、東京都在住。大卒後はSE、人事労務業務に従事し、社労士試験合格後に50代で社会保険労務士として独立。元労働局総合労働相談員。労働相談、人事労務管理、就業規則、電子申請、給与計算が得意です。【特定社会保険労務士】
一般企業における管理職手当の相場はどれくらい?
企業によっては、役職手当や役付手当とも呼ばれる管理職手当ですが、ほかの企業ではどのくらい支給されているのか、気になりますよね。
ここでは、一般企業における管理職手当の相場について、役職別と企業規模別にご紹介します。
役職別でみた管理職手当の平均額
まずは一般企業における管理職手当について、役職別の平均額を確認してみましょう。
東京都産業局が実施した令和2年度の調査によると、東京都内の中小企業の管理職手当の支給額平均は次のとおりでした。
◆一般企業における管理職手当の平均額
役職 | 手当の平均金額 | 平均年齢 |
---|---|---|
部長 | 93,789円 | 51.1歳 |
課長 | 59,881円 | 46.8歳 |
係長 | 28,528円 | 43.0歳 |
企業規模別でみた管理職手当の平均額
続いては、企業規模別にみた管理職手当の平均額を確認してみましょう。
厚生労働省が実施した調査によると、企業規模ごとの平均額は以下のとおりです。
◆企業規模別の管理職手当平均額
従業員の人数 | 手当の平均額 |
---|---|
1,000人以上 | 50.3千円 |
300〜999人 | 38.1千円 |
100〜299人 | 38.8千円 |
30〜99人 | 37.1千円 |
公務員における管理職手当の相場はどれくらい?
次に、公務員における管理職手当の平均額を確認してみましょう。
教員・地方公務員・国家公務員別に、それぞれでご紹介します。
教員における管理職手当の金額
教員の管理職手当については、各市区町村の条例などによって決められています。
たとえば、高知県教育委員会による給与資料によると、高知県の小・中・高校教員の管理職手当は以下のとおりです。
◆教員の管理職手当額(高知県)
役職 | 支給額 |
---|---|
高校の校長・副校長 | 54,600円 |
高校の教頭 | 44,100円 |
小・中学校の校長・副校長 | 52,100円 |
小・中学校の教頭 | 43,700円 |
事務長 | 41,600円 |
地方公務員における管理職手当の平均額
地方公務員は、地方ごとの条例などによって管理職手当の額が決められています。
東京都人事委員会の資料によると、東京都職員の管理職手当の平均額は以下のとおりです。
◆東京都職員の管理職手当
役職 | 特別調整額・管理職手当 |
---|---|
総務部長など | 129,600円 |
本庁部長 | 128,600円 |
出先部長 | 115,000円 |
総務課長など | 106,500円 |
本庁課長 | 92,600円 |
出先課長 | 80,000円 |
国家公務員における管理職手当の金額
国家公務員の管理職手当は「俸給の特別調整額」という名称で支給されます。
人事院の資料によると、「管理又は監督の地位にある職員に支給」に支給される俸給の特別調整額は以下のとおりです。
◆国家公務員の管理職手当(代表例)
組織 | 官職 | 俸給表・級 | 区分 | 手当額 |
---|---|---|---|---|
本府省 | 課長 | 行(一)9級 | 一種 | 130,300円 |
本府省 | 室長 | 行(一)8級 | 二種 | 94,000円 |
府県単位機関 | 部長 | 行(一)6級 | 三種 | 72,700円 |
管区機関 | 課長 | 行(一)6級 | 四種 | 62,300円 |
地方出先機関 | 課長 | 行(一)4級 | 五種 | 46,300円 |
管理職手当が支給される意味合いとは
そもそも管理職手当とは、いったい何のために支給されるのでしょうか?
管理職手当が支給される意味合いから、法律上の取り扱いについてなどをご紹介します。
管理職手当とは?
管理職手当とは、役職手当や役付手当などとも呼ばれ、
部長・課長・係長といった管理職についた社員に支給される手当
上記のことをいいます。
管理職手当が支給される意味合いとしては、
重い責任がともなう職務に見合った働きをしたことについて、支払われるべき対価である
このようなものがあります。
公務員を除く労働者については、労働基準法のなかで、労働条件などの最低限のルールが規定されていますが、じつは「管理職手当の支給」に関する規定はありません。
したがって、管理職手当は企業側で名称も支給額も自由に決められるのです。
公務員の場合は、教員や地方公務員については地方自治体の条例で、国家公務員については「一般職の職員の給与に関する法律」で給与について規定されています。
そのなかで、「管理職になった場合には管理職手当を支給する」と規定されているのです。
「管理職手当=残業代」ではない
管理職になると残業手当などがつかなくなるケースがあるので、
残業代を補う方法が管理職手当である
このように考えている経営者も存在します。
しかしこれは考え方がまったく逆で、本来のあり方は、
管理職手当などの好待遇があるので、『管理監督者』とみなされて残業代がつかない
これが正しい考え方です。
つまり、「管理職手当=残業代」ではありません。
その証拠として、社員側が、
管理職とは名ばかりなので、残業代を支払ってください
このような訴えを起こした場合には、支払い済みの管理職手当は未払い残業代と相殺されることはなく、企業は別途で残業代を支払う必要があるのです。
企業が管理職手当を一方的にカットすることはできない
管理職手当の支給について法律では規定されていないため、支給額は企業側で決めることができます。
しかし、だからといって「業績の悪化」などを理由にして、企業側が一方的に管理職手当の額を減らしたり、カットすることはできません。
労働契約法8条においては、
労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる
このように定められています。
したがって、管理職手当をカットする場合には、企業は社員に説明をして、社員の合意を得る必要があるのです。
ただし、企業側が、
この社員の働きは職位に見合わない…
このように判断して降格となった場合は、状況が変わります。
つまり、
課長から係長に降格したため、その分の管理職手当が下がってしまう
という対応であれば問題ありません。
また社員の同意があったとしても、管理職手当をカットまたは減額すれば、「管理監督者」ではないと判断される可能性が高くなります。
「名ばかり管理職」に該当する場合は、企業はその従業員に対して、残業代を支払う必要が出てくるのです。
管理職手当は割増賃金の基礎となる賃金に算入される
管理職手当は、残業手当や深夜手当などを計算する際の、「割増賃金を計算する際の基礎となる賃金」に含まれます。
「基礎となる賃金」とは、毎月の給料から家族手当や通勤手当などの「除外できる手当」を差し引いた額を、「1ヶ月の所定労働時間数」で割った値です。
- 家族手当:
扶養の有無、家族人数にかかわらず、一律支給するものは計算基礎に算入します。 - 通勤手当:
通勤にかかる費用や通勤距離にかかわらず、一律支給するものは計算基礎に算入します。 - 住宅手当:
従業員個人の住居形態にかかる費用に関係なく、持ち家〇〇円・賃貸住宅△△円のように、定額支給するものは計算基礎に算入します。 - 別居手当
- 子女教育手当
- 臨時に支払われた賃金
- 賞与など1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
管理職手当は、上記の「除外できる手当」に入っていないため、除外せずに計算する必要があります。
(毎月の給与 ー (除外できる手当て)) ÷ 1ヶ月の所定労働時間数(目安としては「21日✕8時間」)
また、残業代が出ない管理職であっても、深夜勤務を行えば深夜手当は支給する必要があります。
管理職の方が深夜勤務を行った際には、管理職手当を含めて深夜手当が計算されているかどうか、確認しておきましょう。
管理職手当がつくと残業代は出ないのか?
管理職に昇進して管理職手当がつくようになったので、残業代が出なくなった…
このような話をよく聞きます。
しかし、必ずしも「管理職は残業代が出ない」というわけではありません。
ここでは、管理職手当と残業代の関係についてご説明します。
残業代や代休が出ない根拠は「労働基準法」
「管理職=残業代が出ない」というルールは、多くの会社に浸透しています。
管理職って、休日出勤しても残業代が出ないし、代休も取れないんだよね…
このような思いこみの根拠となっているのは、「労働基準法」によるもの。
労働基準法の41条2号において、
管理監督者は、労働時間(32条)、休憩(34条)、休日(35条)の規定は適用されない
このように定められているからなんです。
つまり、もしあなたが「管理監督者」であれば、労働時間・休憩・休日について法律の決まりはなく、残業代や休日出勤分の上乗せ賃金も発生しません。
そして多くの会社では、労働基準法のこの条文に基づいて、「管理職には残業代が出ない」という制度を設けています。
労働基準法とは、労働条件に関する最低基準を定めた法律であり、公務員などを除いた、日本国内のすべての労働者に適用されるもの。
正社員だけでなく、アルバイトやパートなども対象となっています。
かりに会社側が、労働者に不利となる条件で雇用契約を結んでも、労働基準法に違反している項目は無効になるのです。
「管理監督者」か「名ばかり管理職」なのかは、実態を見て判断される
前項で労働基準法41条2号について説明しましたが、よく見てほしいのですが、
労働基準法の定めは「管理監督者」であって、「管理職」とは記載されていない
上記の部分について、正しい理解がとても重要となります。
残業代が出るかどうかは、一般的に認識されているような、
- 管理職手当が支給されているか?
- 役職名がついているか?
といった基準で決まるわけではありません。
あなたの会社における管理職のポストが、労働基準法の「管理監督者」に該当するかどうかで判断されるのです。
管理監督者に該当するかどうかは、役職名だけで決まるものではなく、働き方などの実態から判断されます。
そして、管理監督者にあたらない場合は、「名ばかり管理職」といえるため、残業代を支払わなくてはなりません。
名ばかり管理職とは
「名ばかり管理職」とは、「偽装管理職」や「名前だけ管理職」とも呼ばれる名目上だけの管理職のことをいいます。管理職という役職に相応する権限や報酬が与えられないのに、管理職だからといって残業代を支給されない従業員のことを指します。
出典:人事ポータルサイト【HRpro】用語集
つまり名ばかり管理職とは、本来であれば残業代などを支払わないといけない、労働基準法に違反している状態といえるのです。
「管理監督者」と「名ばかり管理職」を判断するポイントは?
あなたの会社の管理職は、労働基準法上の「管理監督者」にあたるのか、それとも違法な「名ばかり管理職」なのか?
どちらなのかを判断するには、以下の3つのポイントにすべて該当するかどうかで決まります。
- 経営者と一体の立場にあり、ふさわしい職務内容や重要な責任、権限が与えられている
- 労働時間や仕事量を自分で調整できる
- 賃金などでふさわしい待遇を受けている
それぞれのポイントについて確認していきましょう。
1.経営者と一体の立場にあり、ふさわしい職務内容や権限がある
管理監督者は、経営の方針決定に参画しており、労務管理上の指揮権限を有している必要があります。
- 会社の経営方針を決める重要な会議に出席している
- 所属する部門・店舗の人員について、採用・解雇についての権限を持っている
- 部下の人事考課を自身が行っている
2.労働時間や休日を自分で決定できる
管理監督者は、時間を選ばず経営上の判断や対応が要請されるため、出退勤について厳格な規制を受けていない必要があります。
- 遅刻、早退などをしても人事考課で不利益な取り扱いをうけない
- タイムカードなどで厳格な勤怠管理を受けていない
- 所属する部門・店舗の勤務シフトや残業の決定権を持っている
3.賃金などでふさわしい待遇を受けている
管理監督者は職務の重要性から、定期給与や賞与その他の待遇などで、一般労働者よりもふさわしい待遇を受けている必要があります。
- 残業代を支給されなくても良いほど、基本給や管理職手当が支給されている
「管理監督者」は3つのポイントをすべて満たす場合のみ
前述した3つポイントをすべて満たした場合のみ、「管理監督者」であると判断されます。
もし条件をひとつでも満たしていなければ、それは「名ばかり管理職」です。
「名ばかり管理職」であれば、休日出勤時の代休や残業代は付与されるべきものとなります。
管理監督者についてより詳しく知りたい方は、以下の厚生労働省のパンフレットも確認してみましょう。
「名ばかり管理職」チェックリスト
過去の裁判例などを参考に、あなたが「名ばかり管理職」かどうかを判断するチェックリストを作成しました。
当てはまる項目が多ければ、「名ばかり管理職」に該当する可能性が高いので、気になる方はチェックしてみましょう。
◆「名ばかり管理職」チェックリスト
①職務内容、権限
□採用、解雇に関する権限がない
□勤務シフトを決める権限がない
□取引先を決める権限がない
□管理業務よりも、一般社員と同様の業務が大部分を占めている
②勤務時間などの管理
□毎日タイムカードを押すことを義務付けられている
□勤務予定表の提出を義務付けられている
□出退勤状況が査定の対象とされている
□長時間の残業などで、長い時間会社に拘束されている
③ふさわしい待遇
□残業代をもらっている部下の方が賃金が高い
□管理職手当など、地位に応じた手当が支給されていない
管理職が未払い残業代を請求したいときはどうする?
ここまでの内容を読んでみて、
自分は「名ばかり管理職」だった…
という場合は、会社に過去の未払い残業代を請求することができます。
ここでは、名ばかり管理職と思われるとき、どのようにして過去の未払い残業代を請求すればよいのか、詳しくお話しします。
「名ばかり管理者」認定されると、過去3年間の残業代を請求できる
管理職として残業代が支払われていなかった社員が、労働基準監督署に相談して「名ばかり管理職」に認定されると、企業側は大変なことになります。
残業代請求の時効は3年間ですので、企業は最大3年間分の未払い残業代を支払わなくてはなりません。
そして注意が必要なのが、前述した通り「管理職手当=残業代」ではないという点です。
企業側からは、
管理職手当は残業代のつもりで払っていたのだから、未払い分から差し引かれるんじゃないの!?
このような声が聞こえてきそうですが、そうではありません。
差し引かれるどころか、「管理職手当は割増賃金の基礎となる賃金に算入される」で説明したとおり、割増賃金の基礎となる賃金に管理職手当は上乗せで計算されます。
たとえば基本給25万円、管理職手当2万円だったとして計算してみましょう。
(25万円+2万円)÷(21日×8時間)= 1,607円(基礎となる賃金)
1,607円 × 1.25 × 30時間 × 24ヶ月 = 1,446,300円
月30時間分の残業代を24ヶ月分支払うとすると、上記の計算式のとおり、企業は2年間で144万円の残業代を支払うことになってしまいます…
「管理監督者」を理解せずに、ただ「管理職=残業代は不要」と考えている企業は、あとあと大変なことになってしまうということですね。
労働基準監督署へ相談してみよう
あなたが「名ばかり管理職」で残業代が支払われていないなら、最寄りの労働基準監督署(労基署)へ行って相談してみましょう。
労働基準監督署とは、会社が労働関連の法律を守っているか監督し、守っていない場合には指導・勧告をおこなう、厚生労働省の出先機関です。
労働基準監督署が「名ばかり管理職」と認めると、会社側に未払い残業代を過去2年分さかのぼって支払うよう命じます。
会社側が「名ばかり管理職」だと認識していたなど、悪質だと判断される場合には、刑事訴追されて罰金刑などが科せられることもあるのです。
相談の際に持参しておきたいもの
労働基準監督署へ相談に行く場合は、以下の書類を持参しておくと話がスムーズに進みます。
- 「名ばかり管理職」に該当するという証拠の書類
- 「名ばかり管理職」だった場合の残業代を計算するための書類
例えば、以下のような書類を準備しておきましょう。
規程などをコピーする際には、会社の上司に見つからないように注意してくださいね。
① 雇用関係の成立を証明する
- 雇用契約書
② 時間外労働手当の取り決めを証明する
- 就業規程
- 賃金規程
③ 管理職の業務内容を証明する
- 職制規程
- 職務権限規程
④ 未払い残業代算出の労働時間を証明する
- タイムカード
- 毎日の出退勤時間のメモ
⑤ 残業を指示された事実を証明する
- 残業指示書や、指示内容が記載されたメール
- 口頭で指示を受けた場合は、その詳細のメモ(時間、場所、誰から、指示内容など)
⑥ 残業時間中の業務実施を証明する
- 作成書類をメールで送信した履歴
- 業務日報
⑦ 給与の内容を証明する
- 給与明細(できれば管理職になる前、残業代が出ていた期間からの明細)
自身の手書きメモなども証拠になる
会社が作成した書類じゃないと、やっぱり証拠にならないのかな…
このように考えがちですが、あなたの手書きのメモでも重要な証拠になります。
できれば1冊のノートに、出退勤時間や残業の指示などをまとめて書いておきましょう。
労働トラブルの相談先は他にもある
労働基準監督署以外にも以下のような相談先があり、それぞれメリットとデメリットがあります。
それぞれの特性を理解して、自分が相談しやすい機関に出向くことをおすすめします。
- 労働組合:
社員同士で助け合うことができるが、組合活動が活発ではない会社もある - 労働局:
迅速に解決することができるが、話し合いがまとまらなければあっせんは打ち切られる - 裁判所の民事調停:
調停調書には判決と同様の効力があるが、歩み寄りの余地がない場合は不成立になる - 弁護士、社労士事務所:
専門家のアドバイスを受けられるが、費用がかかる
未払い残業代請求の最終手段は「弁護士への依頼」
労基署の指導によって、会社が残業代を支払ってくれればよいのですが、必ず応じるわけではありません。
労基署はあくまでも指導を行うだけなので、残業代の請求までは行ってくれないのです。
いろいろな機関に相談してみても、会社側が未払い残業代の支払いに応じない場合、最終手段は弁護士への依頼となります。
弁護士に依頼すると、もちろん有料にはなりますが、
- 法的根拠のある、正しい残業代の計算
- 内容証明郵便の郵送手続き
上記のようなことを、すべて任せることができるのです。
そして弁護士を通すことで、会社が支払いに応じてくれる可能性が高まります。
自分が「名ばかり管理職」にあたるのかわからない…
という方も、相談には無料で応じてくれるところも多いので、まずはネットなどで、労働問題に詳しい最寄りの弁護士事務所を探してみましょう。
未払い残業代請求の時効は3年間
未払い残業代の請求権は3年間となっており、それ以降は時効により消滅します。
つまり請求しても、支払われるのは過去3年間の残業代だけです。
従来は2年だったのですが、2020年4月1日の法改正により3年に延長されました。また、将来的には5年に延長されることが見込まれています。
出典:厚生労働省資料
あなたが管理職になって3年以上経っているなら、請求を先延ばしにすれば、それだけあなたの残業代がどんどん消失していくことになります。
まずは手元にある書類だけでも持って、労働基準監督署などに相談に行きましょう。
名ばかり管理職を世に知らしめた「日本マクドナルド事件」とは
世間に「「名ばかり管理職」というキーワードを有名にしたのが、「日本マクドナルド事件」です。(東京地裁平成20年1月28日)
これは日本マクドナルド直営店の店長が、
店長を管理監督者として扱い、会社が残業代を払わないのは違法だ!
このように主張して東京地裁に訴えた事件です。
日本マクドナルド事件とは
2005年(平成17年)12月22日に埼玉県熊谷市内にある日本マクドナルド直営店店舗の店長が原告となり日本マクドナルドに未払いの残業代と慰謝料等を求めた訴訟を起こした。
裁判は店長が管理監督者かどうかが争点となったが、2008年(平成20年)1月28日、東京地方裁判所はマクドナルド直営店店長について、「経営方針などの決定に関与せず、経営者と一体的立場の管理職とは言えない」と述べ、日本マクドナルドに残業代など計約750万円の支払いを命じた。
出典:Wikipedia
結果として東京地裁は、この店長が「管理監督者にはあたらない」と判断して、マクドナルドに対して未払い残業代など約750万円の支払いを命じました。
- 職務内容、権限:
店長は会社全体の経営方針に関与していない。また営業時間や商品の価格、仕入先などは本社の方針に従わなければならない。 - 勤務時間などの管理:
店長は自分の労働時間を決めることはできる。しかし月に100時間以上の残業をしており、実質的には労働時間を自由に管理できていない。 - ふさわしい待遇:
評価によっては、店長より職位が低いアシスタントマネージャーの給与以下になることがある。
日本マクドナルド側はこの判決を不服としながらも、
今後は店長に対して残業代を支払います
と賃金制度の変更を発表して、世間を驚かせました。
この判決が世間に与えた影響は大きいもので、同じような店長職を抱えている大手企業が、続々と残業代を支払うようになったのです。
名ばかり管理職の割増賃金(法定外休日出勤・法定休日出勤)の計算方法
名ばかり管理職の人が、法律上もらえる割増賃金(法定外休日出勤・法定休日出勤)の割増率は、
- 法定外休日出勤:25%以上
- 法定休日出勤:35%以上
上記のように定められています。
ここでは、
正しい割増賃金の計算方法が分からない…
ということがないように、具体的な例をとりあげて、割増賃金(法定外休日出勤・法定休日出勤)の計算方法をご紹介します。
◆計算事例の前提条件
Aさん 46歳男性 課長職(名ばかり管理職)
- 1ヶ月の所定労働日数:
20日 - 1日の所定労働時間:
9:00~18:00(休憩1hの8時間労働) - 1ヶ月の法定外休日出勤時間:
16時間(割増率25%) - 1ヶ月の法定休日出勤時間:
10時間(割増率35%) - 通勤手段:
自宅の最寄り駅から会社の最寄り駅までの定期代 - 扶養家族:
子供2人(扶養者1人に対し3,000円支給)
◆Aさんの毎月の給与支給項目
基本給 | 役職手当※ | 職務手当 | 通勤手当 | 家族手当 | 総支給 |
---|---|---|---|---|---|
300,000円 | 40,000円 | 60,000円 | 10,000円 | 6,000円 | 416,000円 |
- 役職手当として会社がみなし残業代を支給している場合は計算基礎から除いて計算してください。今回のAさんの例ではみなし残業代は含まれていないものとします。
法定外休日出勤の割増賃金の計算例
まずはじめに、法定外休日出勤分の割増賃金計算に用いる、給与の計算基礎額を計算しましょう。
計算基礎額には、前述した「割増賃金の計算基礎に参入しなくてよいもの」に該当する、通勤手当と家族手当は除外して計算します。
Aさんの場合は、基本給・役職手当・職務手当の合計が、法定外休日出勤分の割増賃金計算に使う給与の計算基礎額となり、
基本給300,000円 + 役職手当40,000円 + 職務手当60,000円 = 400,000円
計算基礎額の400,000円を1ヶ月の所定労働日数、1日の所定労働時間で割り、Aさんの時給を算出します。
計算基礎額400,000円 ÷ 所定労働日数20日 ÷ 所定労働時間8時間 = 2,500円
法定外休日出勤分の割増率は25%のため、Aさんの時給2,500円に25%を乗じて、法定外休日出勤分の1時間あたり割増金額を計算します。
時給額2,500円 × 割増率25% = 625円
Aさんが法定外休日出勤して、1時間勤務した場合には、「時給」+「時間あたり割増金額」の合計が支給されます。
時給額2,500円 + 割増額625円 = 3,125円
Aさんは1ヶ月で法定外休日出勤を16時間しているため、
時間当たり賃金3,125円 × 法定外休日出勤16時間 = 50,000円
上記がAさんが受け取れる法定外休日出勤の賃金となります。
通常の残業代の計算方法も同じなので、名ばかり管理職に該当する方は、いちどご自身の残業代も実際に算出してみましょう。
法定休日出勤の割増金額の計算例
続いては、Aさんが法定休日に出勤した10時間分の割増賃金を計算してみましょう。
時給を算出するところまでは、法定外休日出勤時の賃金の計算方法と同じです。
基本給300,000円 + 役職手当40,000円 + 職務手当60,000円 = 400,000円
計算基礎額400,000円 ÷ 所定労働日数20日 ÷ 所定労働時間8時間 = 2,500円
上記で算出した時給額に、法定休日出勤の割増率の35%を乗じます。
時給額2,500円 × 割増率35% = 875円
Aさんが1時間法定休日に勤務した場合には、「時給」+「1時間あたりの法定休日出勤の割増金額」の合計を法定休日出勤時の賃金としてもらうことができます。
時給額2,500円 + 割増額875円 = 3,375円
Aさんの法定休日出勤時間は1ヶ月で10時間なので、
時間当たり賃金3,375円 × 法定外休日出勤10時間 = 33,750円
上記がAさんが受け取れる法定休日出勤の賃金となります。
名ばかり管理職である場合は、法定休日出勤の賃金も法定外休日出勤の賃金も、法律上の請求権があるものです。
管理監督者の権利とルールとは
自分は管理監督者に当てはまるから、残業代や代休はもらえないのか…
このように思っている方がいるかもしれませんが、管理監督者だからといって、すべての権利がないわけではありません。
ここでは、意外と見落とされがちな管理監督者のルールについて、再確認しておきましょう。
「管理監督者」は残業代と休日出勤手当が発生しない
「管理監督者」は、労働基準法第41条において、
上記のように定められているため、残業代と休日出勤手当は発生しません。
ほかにも、一般労働者とくらべて、以下のような違いがあります。
- 「1日8時間・週40時間」までの労働時間の制限がない
- 「8時間を超える場合は1時間の休憩」が必要ない
だからといって、「会社は休憩なしで働かせていい」というわけではありません。
「管理監督者の3つの条件」でご紹介したとおり、
自分で出退勤を自由に決められる
という前提があるので、そもそも規定する必要がないということです。
管理監督者に労働時間の制限がないといっても、会社に安全衛生上の義務がなくなるわけではありません。
長時間労働によって健康が損なわれることがないように、長時間労働などへの対応を取ることが必要です。
深夜労働をすれば、深夜手当は支給される
深夜時間帯(22時~翌日5時)に労働した場合は、管理監督者であっても、深夜手当を支払わなければなりません。(25%以上の割増賃金)
そのため、通常はタイムカードなどを打刻していない管理職社員でも、深夜業務がある場合には、会社は何らかの方法で時間管理が必要です。
また、割増賃金を計算する際には、管理職手当も割増賃金の基礎となる賃金に含めて計算されます。
管理監督者でも有給休暇は取得できる
管理監督者であっても、有給休暇は取得することができます。
出退勤が自由なのに、有給休暇って必要なの?
このように思う方もいるかもしれませんが、労働基準法では、有給休暇の取得が認められています。
会社側には安全配慮義務がありますので、管理監督者の労働時間を把握して、働きすぎているようであれば、有給休暇を取るように促すなどの対応が必要なのです。
公務員には労働基準法は適用されない
労働基準法は労働者を守る法律ですが、公務員には労働基準法は適用されません。
地方公務員と国家公務員は、それぞれの法律にもとづいて労働・賃金条件が定められています。
地方公務員の場合
地方公務員の場合は、地方公務員法のルールに基づき、各地方の条例で給与などが定められています。
その条例の多くには、
管理職手当を受けている職員には、時間外勤務手当を支給しない
上記のような規定があります。
国家公務員の場合
国家公務員については、「一般職の職員の給与に関する法律」に基づき、課長補佐までは残業代(超過勤務手当)が支給されます。
課長以上は残業代が出なくなりますが、管理職手当にあたる「俸給の特別調整額」が代わりに支給されるのです。
たとえば、地方出先機関の課長であれば、特別調整額が支給額は46,300円となります。
まとめ:管理職の法的な正しい知識をもち、必要なら労働基準監督署へ
今回は、管理職手当について、支給されている相場やその意味合い、残業代との関係性についてお話ししました。
自分の管理職手当の額は適正なのかな…
管理職手当を一方的に減らされたけど、これは問題ないの?
このような疑問をもったまま働くのはつらいですよね。
ご紹介した内容を参考にして、会社が管理職手当の正しい運用をしているのか確認してみましょう。
自身が「名ばかり管理職」である可能性が高いとわかっても、どうするべきか悩んでしまう方も多いのかもしれません。
しかし、そんなときは、
「名ばかり管理職」で残業代を支払わないのは違法行為である
という事実を思い出してください。
これからもいまの会社で働きたいのなら、会社が違法なことをしているのを許せますか?
違法な状態を正すのだと考えて、行動してみましょう。
お話しした内容が、あなたの労働環境の改善につながれば幸いです。