退職するときの悩みの一つとして、「引き継ぎをどうするか?」という問題があるでしょう。
- どこまでやれば、後任者にちゃんと引き継げるのか?
- 引継ぎする内容に漏れはないだろうか…
こういったことを、いろいろと考えてしまうものです。
やり残しがあれば、転職後も心残りになることもありますし、
ちゃんと引き継ぎが終わるまで辞めさせない!
といった嫌がらせを言う会社もあります。
ですが、実際には完璧な引き継ぎというのはありえません。
現実的には、後任者の業務に対する疑問がなくなって、
これなら自分にもできそうだ
と思ってもらえるくらいが、引き継ぎ完了のラインとなります。
この記事では、退職の引き継ぎについて悩んでいる方に向けて、引き継ぎで押さえておきたいポイントを解説しています。
筆者はこれまで転職を7回経験したなかで、何度も退職引継ぎをしてきました。
その実体験も交えながらお話ししていますので、ぜひ最後までご覧いただいて、あなたの悩みを解決するヒントにしてください。
退職の引き継ぎは、どこまでやっても終わりがない!
退職の引き継ぎは、引き継ぐ側と引き継がれる側が、
お互い納得するまで引継ぎをおこなう
というのが理想ですが、それでは終わりが見えませんし、そんなに時間が取れる方は少ないでしょう。
1ヶ月くらいの期間で、後任をベテラン並みにするのは無理がある
筆者が以前退職するとき、取引先に後任の紹介回りをしたのですが、そのときに言われたのは、
ちゃんと使えるようにしてから辞めてくれよ
こっちがイチから教えるのは勘弁してくれ。それは困るよ…
というような話でした。
確かに、後任者をすぐに動けて使えるようにしてから、退職するのがベストでしょう。
しかし、自分と同じくらいの力量がある既存社員が後任ならまだしも、
- 後任者が新人である
- 他業界から転職してきて、まだ勝手がわかっていない
こういった状況であれば、1ヶ月やそこらの引継ぎ期間で、10年選手並みに育てるのは無理です。
完全に引き継いだと言えるまでには、やはり実務の経験値も必要となりますので、実際にはかなり難しいことでしょう。
仕事をしていれば、次から次へと別の問題が出てくる
仮にすべての業務を引き継ぎしたとしても、仕事をしていれば次から次へと問題は発生するものです。
何十年もずっと同じことをやっていたとしても、次々に今までと違う問題が起きますよね…
ですから、たとえ引き継ぎマニュアルを完璧に作ったとしても、
これってマニュアルに書いてないんだけど…
ということはいくらでも出てきます。
例えば、カスタマーセンターやクレーム処理など。
しっかりとしたマニュアルがあったとしても、相手がマニュアル通りに動いてくれることばかりではありません。
ケースバイケースで、判断しなければいけないことがほとんどでしょう。
そして、まだ見ぬ問題を予想して引き継ぎすることはできないのです。
こうした未知の問題への対応策としては、マニュアルで作業のやり方だけを引き継ぐのではなく、
という理由をしっかり説明しておきましょう。
仕事に終わりがないように、引き継ぎにも終わりはありません。
ですから、その仕事自体の意味(骨子)をしっかり伝えておいて、
後任の人が、自分で考えて応用できるようにしてあげる
ということが重要となります。
退職時の引継ぎで心掛けておきたいポイント
退職時の引き継ぎは、実際にはどこまでやればいいのでしょうか?
後任が育つまで、無期限でいつまでもダラダラと続けるわけにもいきません。
引き継ぎにはタイムリミットがあり、たいていの場合は最終出社日まででしょう。
つまり、退職時の引き継ぎは時間との戦いでもあるのです。
引き継ぎの方法を会社に確認しよう
引き継ぎの方法は、会社側の指定があれば、基本的にはその方法に従いましょう。
もしあなたが前任者から業務を引き継いでいるのであれば、前任者の引き継ぎ資料を元にアップデートしてください。
資料が何もなければ、新たな引き継ぎ書類を作成しましょう。
引き継ぎをするときの基本的な流れとしては、
- 引き継ぎする人が、業務の流れをフローチャートでまとめておく
- 実際に業務をやってみせる
- 引き継ぎを受ける後任者が、❶のフローチャートを自分の言い回しで書き直して、マニュアル化する
上記のような形になります。
業務内容をすべて書き出して残しておく
紙でもファイルでもかまいませんが、
引き継ぎ事項はすべて書き出しておく
ということを心がけましょう。
そうしておけば、言った言わないで後々にもめることもありませんし、後任者もあとで何度でも見なおすことができます。
業務内容とそれに伴ってやるべきことを、すべて書き出しておきましょう。
まずは自身がやってみせる
引き継ぎは、まず業務を自身がやってみせるところから始めてください。
概要を先に説明しておくと、後任者が理解しやすくなります。
引継ぎの心構えとしていえることは、
やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ
というものです。
まずは自身でやって見せた後に、後任者にやらせてみて、できないところはフォローしてあげましょう。
すぐにはできないこともありますので、
できないところは宿題で!
ということにして、後日にもう一度やらせてみる形がおすすめです。
マニュアルは引き継ぎする後任者に作らせる
これは筆者が引き継ぎを受ける時に、実際に経験した方法ですが、
引き継ぎマニュアルを、引き継ぐ後任者に作らせる
というやり方が有効です。
他人の言い回しだと、
- 後でわからなくなってしまう
- 意味を取り違えてしまう
こういったことが起こりやすいですが、自分の言い回しでまとめておくと、後から見直したときにわかりやすいでしょう。
引継ぎ資料を後任者に渡すときに、
この資料をベースにして、自分のマニュアルを作っておいてね!
と話しておくとスムーズです。
疑問がなくなるまで、質疑応答を繰り返す
引き継ぎが進むにつれて、いろいろと疑問が出てくるケースも多いでしょう。
後任者も業務を理解できるようになってくると、
これからは自分でしっかりやらなければ…
という思いから、いろいろと疑問点が出てくるものです。
引き継ぎの期間に、できる限り疑問点を潰してあげて、疑問がなくなるようにしてあげましょう。
疑問点がなくなれば、引き継ぎはほぼ完了したといえる状態になります。
解決していない問題点も教えておく
もうひとつポイントとして、
- いま抱えている問題
- これから発生するかもしれない問題点
上記についても、自身の見解と対策を教えておきましょう。
退職までに自分で処理できない問題があれば、後任者に伝えておいて、処理方法や対策について指示を出しておきます。
今すぐの問題点でなくても、前もって伝えておくことで、後任者も心構えができるというものです。
理想は即戦力にすること
これはあくまで理想論ではありますが、
社内でもクライアントに対しても、戦力として使えるようにする
というのが引き継ぎの理想です。
実際にはそこまでできるケースは少ないかもしれませんが、
よし、これならなんとかできそうかも
このように後任者が感じて、滞りなく退職後の業務を行えるようにしてあげましょう。
私が経験した引き継ぎ体験談
会社や環境が違うと、引き継ぎにもたくさんのやり方があり、いろいろな問題が起こるものです。
ここでは、筆者がこれまでの転職で引き継ぎした際に、経験したことをご紹介します。
パソコンの中身をすべて消していった前任者
筆者が管理職だった時に、ある社員が退職することになりました。
後任の社員がいなかったため、当面の引き継ぎを筆者が受けたのです。
しかし退職後に、退職した彼のパソコンを確認したら、簡単な引き継ぎ書以外はすべて削除されていました…
その社員は営業だったのですが、
- 業務日報
- クライアントに提出した企画書
- 担当者の実績など
上記のような資料をサーバにも残すことなく、すべて削除していたのです。
パソコンをチェックしなかった筆者も間抜けでしたが、
これはやられた…
このように思わざるを得ませんでした。
幸いなことに、特段の必要な資料もなかったので事なきを得ましたが、
必要と思われる資料は、退職するときは削除せずに残しておく
ということを心がけてください。
退職後に、後任から電話が頻繁にかかってくる
筆者が退職した後に、わからないことがあるとすぐに電話をかけてくる人もいました。
引き継ぎ期間は1ヶ月ほどあったので、
よし、しっかり引き継ぎできたな…
と思っていたのですが、後任者はキャリアが浅いこともあり、なかなかうまく回せなかったようです。
後任の子は、在職中は直属の部下であり、可愛がっていたこともあったので、とくに苦に感じることもなく、その都度対応していました。
しかし、そういった良好な関係性ばかりとは限りませんし、
- 後任者があまり仲良くない社員である
- 何の遠慮もなく、当たり前のように電話をかけてくる
上記のような場合は、イライラしてしまうこともあるでしょう。
とくに、こちらが転職して間もない時期であればなおさらです。
引き継ぎをする際に、
わからないことがあったら、いつでも連絡してくれていいよ!
このように言うのはとても親切ですが、後任がすぐに人を頼ってくるタイプの場合には、注意したほうがよいかもしれません。
引き継ぎはいらないと言われた会社
ある会社にいた時にリストラされてしまい、
3日後から出社不要です。引き継ぎもいりません!
このように言われたことがあります。
まさに喧嘩上等です。
そのときはカチンときて、
こんな会社に義理はない。引き継ぎなんかひとつもしてやるものか!
という思いになりました。
しかし、筆者はまだその業界で生きていくつもりだったので、クライアントには仁義を通さねばなりません。
たとえ会社から出社不要と言われたとしても、
〇〇さんは挨拶もなく、急に辞めちゃったのか…
こんなふうに思われてしまうと、この先の自分の信用にかかわります。
とりあえず3日間でクライアントに挨拶回りをして、後任の部下には必要最小限の引き継ぎをしてから、退職することにしました。
とくに同業界に転職する場合は、
辞める会社に義理はない、引き継ぎなんか適当でいいよ…
上記のように考えるのではなく、
将来の自分のために必要なことである
と思って引き継ぎをしておいた方が、自分にとって安心です。
自分が編み出したやり方を、引継ぎする義務はあるのか?
自分が考え出した効率よい仕事のやり方を、後任に伝えるべきかどうか悩む場合もあるかもしれません。
例えば、
- Excelにものすごい数式を組んで効率化した
- 自分でシステムを組んで、作業を短時間にできるようにした
こういった場合に、それを残していく義務があるのかどうかというケースです。
自分の作ったシステムを巻き戻して、退職してしまった知人の話
これは筆者の知人の話ですが、彼はある会社でITを担当していました。
自分で作ったシステムを活用して、3人分の仕事をこなしていたのですが、
自分の仕事が正当に評価されていない…
と感じた彼は、転職することを決意したのです。
そして退職するときに、自分の作ったシステムを置いて行かず、彼が入社する前の古いやり方で、後任者に業務を引き継ぎしました。
すると、引き継いだ後任の担当者は、
この仕事量は3人分くらいあるので、とても私一人では対応しきれません!
このように会社に相談したのだとか…
退職する本人は、さぞや痛快だったでしょう。
業務時間に作ったものは「会社のもの」。引き継ぎはするべき
個人的には、知人に共感できる点もあるのですが、実際にはあまりおすすめできるやり方ではありません。
- 業務中に開発したシステム
- 業務時間内で作成した書類
こういったものはやはり「会社のもの」と判断されますので、引き継ぎのときに共有しておくべきです。
たとえ作成したシステムを会社に置いてきたとしても、作成する能力やノウハウは、すでに自分の中にある財産であり、減るわけでもありません。
後任者に引き継げることは、実際には業務の方法論や形式でしかないのです。
どれだけ綿密なマニュアルを作ったとしても、後任者はあなたと同じようにはできないでしょう。
マニュアルというのは楽譜のようなものです。
ピアニストによって表現方法が違うように、同じマニュアルでも出せる結果は人によって違いますから、
- 気難しいクライアントのご機嫌の取り方
- 自分で構築したノウハウや信用など
こういったものをすべて引き継ぐことはできません。
教えられることは、出し惜しみせずに教えてあげましょう。
後任者に教えているうちに、こちらも気づかされることもあったりするものです。
まとめ:引き継ぎ期間の完了は後任者の疑問がなくなるまで
今回は、退職するときの引き継ぎについて、どこまでやればよいのかを、筆者の経験をもとにお話ししました。
どこまで引継ぎすればよいのだろうか?
このように悩むかもしれませんが、実際には完璧な引き継ぎというのはあり得ません。
もちろん、後任者が自分と同じように、仕事ができるようにしていくのが理想的です。
しかし現実的には、業務への疑問がなくなり、
これなら自分にもできそうだ!
と思ってもらうくらいが、引き継ぎできる限界でしょう。
「言ったの言わない」とか「引き継ぎで聞いてない」というトラブルにならないように、
引き継ぎ事項はすべて書面に起こしておく
ということをおすすめします。
「立つ鳥跡を濁さず」といいますが、とくに同業他社に転職する場合は、適当な引き継ぎをすると自分の首を絞めることになりかねません。
これからの自分のためにも、できるだけ丁寧に引き継ぎしておきましょう。